素直になれない夏の終わり
この男は毎度毎度、その無駄な自信は一体どこから湧いてくるのかと夏歩は思った。
何を言い返したってきっとこの男には伝わらないとわかっているから、夏歩は無視してマグカップに息を吹きかけて口をつける。
甘いココアを一口飲んで、ホッと一息ついて、チラッと視線を向けたら、津田はまだ夏歩の方を見つめていた。その口元に、満足そうな笑みを浮かべて。
「……なに」
「無言は肯定と取るのが一般的だと俺は思ってるんだよね」
何のことかと首を傾げたら、津田は「ああ、気にしないで」と言ってから
「それよりなっちゃんは、時間を気にした方がいいと思う」
そう言えば、随分とのんびりココアを楽しんでしまっているが今は何時だとスマートフォンで確認し、夏歩は驚いてマグカップを手にしたまま立ち上がった。
「何でもっと早く教えてくれないのよ!」
「俺もうっかりしてた。どうやってなっちゃんに“はい”って言わそうか考えるのに忙しくて」
なんて無駄なことに頭を使っているんだと恨めしげに津田を見て、夏歩は何度も息を吹きかけながら出来る限りのスピードでココアを飲み干し、空になったマグカップをテーブルに置いて鞄を手に取る。