気づけばいつも探してた
翔は何も言わず、アクセルを強く踏み速度を上げていく。

少しずつ空が暗くなってきたので彼は車のライトをつけた。

前がライトの光で明るく照らされ、暗くて不安な道のりの先がようやく見えるようになる。

「美南と松山城に行く少し前に兄から聞いたんだ。矢田美南さんと付き合ってるって」

翔が静かに話し始めた。

「兄はもちろん、俺が美南のこと知ってるなんて思いもしない。俺もその時はショックで彼女と知り合いだなんてこと言う余裕もなかった」

「竹部さん……大さんはまだ知らないのね?翔と私のこと」

「ああ。知らない」

翔はふぅと長い息を吐いた。

「兄はいい奴だよ。頭がいいだけじゃなく、俺を本当の弟のようにかわいがってくれた」

それ以上言わないで。

耳を塞ぎたくなる衝動を必死に抑えた。

だってそんなこと言われれば言われるほど自分の気持ちを翔に伝えられなくなる。

じっとうつむいたまま何も言えずこの時間が夢でありますようにと祈っていた。

ほどなくしてT大学病院に着き、竹部さんのいる集中治療室に翔と向かう。

命には別条はないものの、頚椎を損傷しているらしく首を固定されて色んな点滴や装置につながれた竹部さんがベッドに横たわっていた。

思っていたよりも重症であることに絶句する。

翔が竹部さんのそばに近づき「兄さん」と小さく呼んだ。

目をつむっていた竹部さんの眉間がわずかに動く。

そして、目をつむったまま「翔か?」と苦しそうな声で答えた。

「ああ。大したことなくてよかった」

翔は敢えてそう言って微笑む。

「そうだな。こんなのすぐによくなるさ」

竹部さんも目を閉じたまま微笑み返す。

「兄さん、ハンドル切り損ねたって?」

「ああ、情けない話だよ」

「運転は俺よりうまいはずなのに、疲れてたか?」

「かもしれないな」

「まぁ、この事故で他に誰も傷つけてないならよかったんじゃない?」

その時だった。

竹部さんがうっすらと目を開け、翔の顔を見つめながら言った。

「いや、実は助手席に人が乗ってた」

「同乗者がいたのか?」

竹部さんは再び瞼を閉じ「ああ」と答える。

「助手席に乗ってた人は?」

「俺と一緒にここに運ばれてる。心配だから翔、見てきてもらえないか?」

「それは構わないけど、その人の名前は?」




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