気づけばいつも探してた
「みゆき……」
「みゆき?」
翔も初めて聞く名前らしく、竹部さんに顔を近づけて復唱する。
「神田美由紀さんだ」
神田美由紀?
って、まさか美由紀?
翔の表情が一気に険しくなったのがわかった。
「神田美由紀って誰だ?」
「俺の……大切な人だ。彼女は助手席に乗っていた……」
「大切な人だって?」
翔の語調が強くなる。
「またお前にはゆっくり話すけど、実は今日以前話した矢田美南さんと会う約束をしていたんだ。美由紀と二人で彼女に会って直接伝えなくちゃならないことがあった」
翔は部屋の入口で立ち尽くす私の様子を確認するとまたすぐに竹部さんの方に向き直る。
「二十時に矢田さんとS駅前で待ち合わせしてるんだ。申し訳ないが彼女に行けなくなったと伝えてもらえないか?」
「わかった」
そう答えた翔は、険しい表情で私の方へやってきて部屋の外へ出るように目配せした。
私が来ていることを知らせないまま二人で部屋の外に出る。
頬を膨らませ一気に息を吐きだした翔は、部屋から出てすぐにある談話室の長椅子に腰を下ろした。
私も翔の隣に続いて座る。
膝の上に両肘をつき顔の前で両手を組んだ翔が、正面を向いたまま静かに言った。
「思っていたより重症だったな。さっき兄の右手を握ったんだけど何の反応もなかったよ。頚椎損傷で手に多少障害が残るかもしれない」
「そう、なんだ……」
手に障害って……外科医の竹部さんにとって手は命なはず。
竹部さんの現実についてようやく自分の思考回路が追い付いてきたのか、胸がぐっと締め付けられるように痛んだ。
「助手席にいた……神田美由紀って」
その名前を出してこない翔にこちらから投げかけた。
翔の表情が一瞬強張り、私から目を逸らす。
「私、その人知ってるの。私の会社の同期。もともと竹部さんを紹介してくれたのも彼女なの」
妙に冷静な気持ちでそう言いながら、私自身、竹部さんの隣に美由紀がいることにちっとも不自然な気がしなかった。
その事実に全くショックを受けていない自分が不思議なくらいに。
翔はうつむいたまま膝の上に置いた自分の手をぐっと握り締めた。
「私も心配だわ。すぐ見てきて」
「お前、どうしてそんな冷静に言ってられんだ?」
「それは……」
「俺、今どうにかなりそうだよ」
そして、声を絞るように言った。
「美由紀って奴を大切な人……って言った兄を、あんな無防備な傷ついた兄を本気でぶん殴りそうだった」
翔の頬は紅潮していて、食いしばった口は何かを必死に堪えているように見える。
「みゆき?」
翔も初めて聞く名前らしく、竹部さんに顔を近づけて復唱する。
「神田美由紀さんだ」
神田美由紀?
って、まさか美由紀?
翔の表情が一気に険しくなったのがわかった。
「神田美由紀って誰だ?」
「俺の……大切な人だ。彼女は助手席に乗っていた……」
「大切な人だって?」
翔の語調が強くなる。
「またお前にはゆっくり話すけど、実は今日以前話した矢田美南さんと会う約束をしていたんだ。美由紀と二人で彼女に会って直接伝えなくちゃならないことがあった」
翔は部屋の入口で立ち尽くす私の様子を確認するとまたすぐに竹部さんの方に向き直る。
「二十時に矢田さんとS駅前で待ち合わせしてるんだ。申し訳ないが彼女に行けなくなったと伝えてもらえないか?」
「わかった」
そう答えた翔は、険しい表情で私の方へやってきて部屋の外へ出るように目配せした。
私が来ていることを知らせないまま二人で部屋の外に出る。
頬を膨らませ一気に息を吐きだした翔は、部屋から出てすぐにある談話室の長椅子に腰を下ろした。
私も翔の隣に続いて座る。
膝の上に両肘をつき顔の前で両手を組んだ翔が、正面を向いたまま静かに言った。
「思っていたより重症だったな。さっき兄の右手を握ったんだけど何の反応もなかったよ。頚椎損傷で手に多少障害が残るかもしれない」
「そう、なんだ……」
手に障害って……外科医の竹部さんにとって手は命なはず。
竹部さんの現実についてようやく自分の思考回路が追い付いてきたのか、胸がぐっと締め付けられるように痛んだ。
「助手席にいた……神田美由紀って」
その名前を出してこない翔にこちらから投げかけた。
翔の表情が一瞬強張り、私から目を逸らす。
「私、その人知ってるの。私の会社の同期。もともと竹部さんを紹介してくれたのも彼女なの」
妙に冷静な気持ちでそう言いながら、私自身、竹部さんの隣に美由紀がいることにちっとも不自然な気がしなかった。
その事実に全くショックを受けていない自分が不思議なくらいに。
翔はうつむいたまま膝の上に置いた自分の手をぐっと握り締めた。
「私も心配だわ。すぐ見てきて」
「お前、どうしてそんな冷静に言ってられんだ?」
「それは……」
「俺、今どうにかなりそうだよ」
そして、声を絞るように言った。
「美由紀って奴を大切な人……って言った兄を、あんな無防備な傷ついた兄を本気でぶん殴りそうだった」
翔の頬は紅潮していて、食いしばった口は何かを必死に堪えているように見える。