イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「わかりました、プリンセス」

「プリンセス? あの、私は愛菜だよ。それと、こういうことはやめ……」


そう言いながら距離を取ろうとしたら、いっそう強く抱きしめられてしまう。


「安心してください、これからは愛菜だけにします」

――なにが安心なのかわからないっ。

「えっと……ひとりに絞ればいいとか、そういうことでもなくて」

「うーん、日本語は難しいですね」


困ったと言いたげな顔をしながら、ディオくんは私に顔を寄せてくる。

た、助けて……っ。

言葉と文化の壁にぶつかっていると、腕を力強く引っ張られた。

え……。

鼻をかすめるお揃いのシャンプーの匂い。

気づいたときには、私は剣ちゃんの腕の中にいた。


「おい、そこのペテン師王子。都合の悪いときだけ言葉がわからないふりしてんじゃねぇぞ」


剣ちゃんは私をディオくんの視界に入らないように、深く抱き込む。

こんなときに不謹慎だけど……。

守ってくれる剣ちゃんにドキドキしてしまった。


「あなたは? 愛菜のなんですか?」


私と剣ちゃんを見たディオくんは、真剣な表情で尋ねてくる。


「愛菜は俺の……っ」


剣ちゃんの言葉が勢いを失ってしぼむ。

頬をわずかに赤らめた剣ちゃんは、ぎりっと奥歯を噛むとそっぽを向いてしまった。


「そんなこと、わざわざ話してやる義理はねぇ」


私が彼女だって言うの、恥ずかしかったんだろうな。

なんだか、それが微笑ましい。

剣ちゃん、実は結構な照れ屋だよね。

そんなところも好きだなぁ。

珍しく取り乱している剣ちゃんの顔に癒されていると、ディオくんがふんっと不敵に笑った。


「女性を素直にほめるのはマナーです。大事な女性には特に、愛を囁くべきだと思いますけどね」

「いいんだよ、俺とこいつは……そ、相思相愛なんだっつーの」


えええっ。

あの剣ちゃんが相思相愛って言った!

信じられない……。

絶対に誰かにのろけたりする人じゃないのに。

開いた口がふさがらない私を、剣ちゃんが怒ったように見下ろす。


「なんだよ、その心底驚いたって顔は」

「本当にびっくりしたんだよ! 相思相愛なんて、普段、そんなこと言わないでしょ?」

「それは……あいつにつられた。以上」


出た、剣ちゃんの『以上』。

面倒くさいときと照れてるときは、絶対にこのひと言で話を切り上げようとするんだから。


「もう……でも、うれしかったな。うん、私たちは両想いで相思相愛だもんね」

「……っ、へらへらすんな。あと、調子に乗んな」

「ふふっ、はーい」


笑いながら返事をすれば、剣ちゃんは赤い顔で私の鼻をきゅっとつまんだ。

そんな私たちのやり取りを見ていたディオくんは、眉をハの字にする。


< 120 / 150 >

この作品をシェア

pagetop