イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「あなた方の仲がいいのは、わかりました」

「じゃあ、愛菜には近づくなよ。これ以上虫が増えると、追い払うのが面倒くせぇからな」


それってまさか、雅くんのこと?

というか、王子様を虫呼ばわり……。

また学くんに怒られちゃうよ。

ううん、今度こそ抹消されちゃう!

恐ろしくて学くんのほうを見れないでいると、ディオくんは首を横に振る。


「答えはノーですね。婚約しているわけでは、ないのでしょう? なら、まだ私にもチャンスがあるということです」

「結局こうなるのかよ……」


宣戦布告するような強気なディオくんに、疲労困憊の剣ちゃん。

ふたりを見つめながら、私はハラハラしてしまう。
これからどうなっちゃうの……!?



昼休み、私と剣ちゃんと萌ちゃんは学くんの手伝いで、一緒にディオくんに校内を案内することになった。

もちろん、朝のホームルーム前に私から申し出たことだから断りはしなかったけれど……。

ディオくんに出会ってからだったら、全力で断っていたと思う。

だって……。

私は両脇にいるふたりをチラリと見る。


「愛菜、愛菜は日本の政治家の娘なんですよね? でしたら、身分も相応。あなたをプリンセスに――」

「させねぇからな、ディオ。あと、気安く愛菜の名前を呼ぶんじゃねぇよ」


いつ修羅場に発展してもおかしくない!

ここから逃げたい!

私は助けを求めるように背後を振り返る。

すると、学くんは明後日の方向を見ていて、萌ちゃんはグッドラックと親指を立ててウインクしてきた。
ううっ、助けは期待できない。

自分で乗り切るしかない。

無意識のうちに逃亡経路を探していると、ディオくんが前髪をさっと手で払いながらため息をつく。


「剣斗、余裕がない男は嫌われますすよ」

「節操がない男もどうかと思うけどな。女ならほいほい口説く癖、早々に改めたほうがいいんじゃねぇの?」


売り言葉に買い言葉。

もはや、ふたりは校内をただ歩いているだけ。

説明もしていないし、見てもいない。

そういえば、授業中も……。

剣ちゃんは体育の剣道で、ディオくんは英語で競い合っていて、ずっとバチバチしていた。


「ふたりとも、仲良くはできないのかな? せっかく同じクラスになれたんだし……」


それにディオくんは一ヶ月しか学園にいられない。

言い争いばかりで留学期間が終わっちゃうのは悲しい。

できれば、いい思い出を作って帰国してほしいんだけど、それは難しいのかな。


「すみません、それは愛菜のお願いでも厳しいですね」


ディオくんは申し訳なさそうに目を伏せると、許しを乞うように腰をかがめて私の手を取った。


< 121 / 150 >

この作品をシェア

pagetop