イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「きゃっ」


――なに!?

そのまま視界が反転して、私は椅子から落ちると図書室の床に背中を打ちつけた。


「いった……」

「痛い? ごめんね、加減がきかなくて」


薄っぺらい謝罪を口にした雅くんは私を組み敷いたまま、楽しそうに目を細めている。


「……っ」


私は雅くんを押しのけようとしたのだけれど、手首を頭の上でまとめるように押さえられてしまった。

しかも、雅くんにお腹に乗られているせいで身動きがとれない。


「雅くん、なんでこんなこと……」

「この体勢で、やることなんてひとつでしょ」


感情を映さない瞳が私を捉える。

身体の芯から凍りつくような恐怖を覚えた。

私は震えながら、目に涙を浮かべる。


「その顔、ぞくぞくする」


雅くんの手が私の制服のリボンにかかったとき――。

バンッと勢いよく図書室の扉が開いた。


「愛菜!」

飛び込んできたのは剣ちゃんだった。

「剣ちゃ……ん」

怖くて、かすれた声で名前を呼ぶと剣ちゃんは無言で私を押し倒している雅くんに向かって大股で歩み寄る。

そして、雅くんのワイシャツの襟をつかむとその身体を思いっきり後ろに押しのけた。


「ぐっ、乱暴だな」


投げ飛ばされる勢いで背中を図書室の床に打ちつけた雅くんは、それでも変わらず微笑を浮かべている。

それを見た剣ちゃんは忌々しそうに舌打ちすると、雅くんをにらみつけた。


「てめぇが投げ飛ばされるようなことをこいつにしたからだろうが」

「ごめんね。愚かなくらい愛菜さんがかわいくて、つい」


悪びれもせずに襟もとを直す雅くんに、剣ちゃんのまとう空気が張り詰める。


「言ったよな。てめぇのゆがんだ愛情がこいつを傷つけるなら、俺も容赦しねぇぞって」

「俺も言ったはずだよ。彼女をなんとしても手に入れるって。そのために手段は問わない」

「そうかよ」


今にも殴りかかりそうな表情で雅くんを一べつすると、剣ちゃんは私の前で腰をかがめる。


「剣ちゃん?」


呼びかけても返事がない。

怖い顔で唇を固く引き結んだまま、剣ちゃんは私を肩に担ぐと図書室の扉まで歩いていき、雅くんを振り向く。


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