イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「俺、犬並みに鼻が利くんだよ。だからな、その綺麗な顔、つぶされたくなかったら二度とこいつに近づくな」

「はは、怖いね」

「警告してやってんだよ。次、愛菜に変なマネしてみろ。今度は投げるだけじゃすまねぇからな」


相手を震え上がらせるような威圧感をはなって、剣ちゃんは私を担いだまま図書室を出る。

私は冷めない剣ちゃんの怒りを肌で感じながら、振り向いた。


「も、もう降ろして大丈夫だよ?」

「…………」

「重いでしょ?」

「…………」

「剣ちゃん?」


声をかけてもまったく返事をしてくれない剣ちゃんに、私は不安になる。

そのまま空き教室に連れていかれると、乱暴に床に下ろされた。


「痛っ……剣ちゃん、どうし……」


どうしちゃったの?

そう尋ねようとしたとき、床に座り込んでいる私に剣ちゃんがおおいかぶさってくる。

私の両手首を掴んで、動きを封じるように壁に押しつけた剣ちゃんは――。


「あっ」


まるでイラ立ちをぶつけるように、首筋に噛みつくようなキスをしてきた。


「や、やめ……んぐっ」


私の悲鳴は剣ちゃんの大きく骨ばった手にふさがれてしまう。


「いつもみてぇにぼさっとしてっから、あいつに押し倒されたんじゃねぇの?」

「んーっ」


どうしてこんなことするの!

なにも言えない私の首筋に、剣ちゃんは唇をはわせたまま続ける。


「あんまし、ほかの男に気を許してんなよ。でねぇと俺の歯形、消えねぇうちにまたつけるぞ。首輪みてぇにな」


剣ちゃんの歯が軽く肌に食い込む。

その表情は険しいのに悲しげで、胸がチクリと痛んだ。

こんな顔、知らない。
剣ちゃん、すごく怒ってるんだ。
でも、だからってこんなこと……。

剣ちゃんの気持ちがわからなくて、じわっと目に涙がにじんだ。


「んっ、やめて!」


私は泣きながら剣ちゃんの胸を突き飛ばす。

その拍子に尻餅をついた剣ちゃんは、バツが悪そうに私から目をそむけていた。


「剣ちゃんがなにを考えてるのか、なにを言いたいのか、全然わかんない! どうしてこんなこと……」

「愛菜……悪か――」

「ひどいよっ」


剣ちゃんの言葉を最後まで聞かずに、私は一方的に責めてしまった。

それに罪悪感が襲ってきて、私はたまらず逃げるように教室を飛び出した。
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