明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
声を振り絞ると、信吾さんが近づいてきたのがわかる。
そして、腰のサーベルを抜いたのも。
殺されるかもしれない。
もし妹さんの無念と彼の心の傷が癒えるのならそれでもいいと、一瞬頭をかすめた。
しかし、私には直正がいる。
この子を置いて死ぬわけにはいかない。
「顔を上げろ」
怒りを纏った声で促され、ゆっくりと顔を上げていく。
すると、顎の先にサーベルを突きつけられて緊張が走る。
当然の報いとはいえ、怖くて信吾さんと視線を合わせられない。
「どうかお命だけは……。この子を置いては死ねません」
背中に抱きついてきた直正が微かに震えている。
私は必死に懇願した。
「ここは私が対処する。お前たちは市内の見回りを続けろ」
「かしこまりました」
信吾さんがうしろの警察官に指示を出すと、ふたりの足音が遠ざかっていった。
すると彼は私に突きつけていたサーベルを腰に戻し、「立て」と指示を出す。
私は言われた通り立ち上がり、怖がる直正を背中に隠した。