明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「ありがとうございます」


そんなふうに言われるとは意外だった。

暴漢に襲われたと知られれば、もう二度とひとりでの外出はままならない。
いや、外出禁止令が出るかもしれない。

それを察した彼の気の利いた発言に安堵した。


「ですが、ひとりでの外出も心配だ。路地裏には決して入らぬようお気をつけください。あの和菓子舗に行きたいときは、私がお連れしましょう」
「黒木さんが?」


どうしても行かなければならない場所ではないが、彼にまた会えるかもしれないと心が弾むのはなぜだろう。


「はい。鍛冶橋(かじばし)の庁舎はご存じで?」

「存じ上げております」

「和菓子を買いたいときだけでなく、なにか困られたらそちらに詰めておりますので。あっ、今日のように外にいることも多いので、いなかったら申し訳ない」

「いえっ、ありがとうございます」


ここまで気を使ってくれるのは、おそらく襲われたときに私が震えていたからだろう。
とても優しい人だ。
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