明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

黒木家がとんでもない資産家だと知ったのは、それから十日ほどしてからのこと。

歳が近く仲のいい女中のてるが新聞を持ってきたときのことだった。


父に世の中のことを知っておくのも子爵令嬢のたしなみだと言われているので、こうして毎日新聞に目を通してはいるものの、本当はあまり好きではない。

政治の話はピンとこないのだ。

けれども【黒木造船、増収】という見出しを見た瞬間、心臓が小さな音を立てる。


「黒木……」


助けてくれた黒木さんと同じ苗字だったからだ。


「黒木造船は有名ですよ。士族出身の華族さまらしいのですが、一代で財を成したんだとか。士族は商売に手を出して失敗することが多いというのに、まれな成功例のようですね」
「士族出身?」


てるの発言にドキリとしながら読み進めると、黒木邸が千駄ヶ谷にあることが記されており、間違いなくあの黒木さんの家だと確信した。

彼は千駄ヶ谷に住んでいて、なかなか住み心地がいいと話していたからだ。
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