明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「八重さま、どうかされましたか?」
「えっ? ううん。新聞に載るほどだからすごいのねと思って」
指摘されて曖昧に答えると、てるは再び口を開く。
「そうですね。旦那さまは新華族を快く思ってはいらっしゃいませんが、最近では新華族のほうが財を持っていることも多いですし。ただ黒木造船は、ひとり息子がなんでしたか……他の職業に就いてしまわれたとかで――」
「警察官かしら?」
「あっ、そうです。警察官でした。八重さま、よくご存じで」
てるの発言を遮ってから、しまったと口を閉ざしたが遅かった。
「女学校で聞いたような……」
まさかその黒木さん助けられたとも言えず、声が小さくなる。
「まあ、女学校で話に上がるほどのお方なのですね。たしか二十八歳でしたか、そのご子息がどんな嫁取りをされるのかと女中の間では話題がもちきりなんですよ。なんでもすこぶる優秀で、しかも顔立ちも申し分ないそうですから」