明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
女中はそういう噂話が大好きで、いつもあの男爵にここの令嬢が嫁いだとか、駆け落ちしたとか、そんな話ばかり聞こえてくる。
しかし、黒木さんがそれほど有名な方だとは知らなかった。
「どうして警察官になられたのかしらね」
「さあ、そこまでは存じません。慶應義塾を卒業になり、家業を継がれるかと思いきや警視庁にだそうですよ。わざわざそんな厳しい世界に身を置くなんて、なにか余程の理由でもおありだったのか……。実直で手柄も多数上げられたそうで、あっという間に昇進されたようですけどね」
余程の理由、か。
警視庁の警察官になるには、厳しい訓練を乗り越えなくてはならないと耳にしたことがある。
なにもせずとも大きな会社の社長の椅子が転がり込むというのに、たしかに警察官を志した理由がわからない。
「士族の誇りかもしれませんね」
てるがそう言うのでうなずいた。