明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
想像していたより大きな騒擾(そうじょう)のようで、胸が激しく打ち始めた。
「昨日のこの騒動のこと、なにか知らない?」
「さあ。女中連中もそういったことには疎くて。ただいろいろなところから火の手が上がり大変だったとは小耳に挟みましたけど」
警視庁に三万人もの暴徒に対応できる警察官がいるとは思えない。
ほとんどの人が動員されたに違いない。
それでも足りないくらいだったのでは?
私は無性に胸が苦しくなり、開いた障子の向こうに広がる空を見上げる。
ロシアとの戦争が勃発していることは知っていた。
しかし、私たちの周辺は穏やかで何事もなかったため、まったく実感はなかった。
けれどこのような暴動が起こると、身が引き締まる。
体を張って暴徒を止めなければならない黒木さんのことを考えると、心中穏やかではいられない。
「無事でいてください」
私には空に向かって願うことしかできなかった。