明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
結局軍隊も出動する事態となった。
しかもその晩、東京市と周辺に戒厳令が出されるまでに発展し、ますます不安は募る。
七日夕方になると雨が降ったこともあり、一部を除いて暴動は沈静化した。
けれども、当然黒木さんの安否を確認しようがない。
警察署を狙った騒擾が一部残っていることもあり、警視庁に駆けつけることもできず、苦しい時間を過ごした。
戒厳令が出たため、一時的に女学校は休校。
大蔵省に勤める父もとても仕事にはならず自宅待機。
ただ逓信省に勤める兄のみが出勤している。
「ねえ、てる。私たちはこんなふうに過ごしていていいのかしら?」
「突然なにをおっしゃるんですか?」
自室でてるに髪を結ってもらっていると、ふとそんな気持ちになる。
「だって、私たちは生活に困ることもなく、こうしてきれいな着物を着せてもらって髪まで結ってもらえる。一方で戦争に行ったり家族を亡くしたりして路頭に迷う人もいるでしょう?」