明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
そして、仕事とはいえ騒動のど真ん中に突進していかねばならない黒木さんのような人たちも。
彼に出会うまでこんなことを考えたことがなかった。
良妻賢母こそ私たちの幸せと信じて疑わなかったが、本当にそれでいいのかと疑問が湧いたのだ。
女中の中には父や兄弟が日露戦争に出征した人もいるし、亡くなった人も。
しかし、自分の父や兄には出征の命令は下らないと思っていたし、実際下ってはいない。
どこかで他人事だったのだ。
華族として恥じない女性になるようにとだけこんこんと説かれ、自由のない生活に嫌気がさしていたなんて贅沢だったと。
「八重さまは、よき星のもとにお生まれになったんですよ。私たちはうらやましいです。ですが、私たち女中にも優しくしてくださる八重さまにお仕えできるのも、幸せなことなんですよ。商店で会う他家の女中は、かなりなじられている者もいるようですしね」