明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

女中にも横のつながりがあるのか。

さすがに手を上げることはないが、父も母も女中には厳しい人で、震える女中を見て育ってきた。

だからか自分は、声を荒らげるというようなことはしたくないと思っている。


そもそも、私の世話をしてくれるてるをはじめとした女中に、なにも不満などない。


「ありがとう、てる。私はてるたちがいないとなにもできないのよ。もっとしっかりしなくちゃね」


もしかしたら今も窮地にいるかもしれない黒木さんの顔を思い浮かべて、そんなことを口にした。



仕事から戻った兄の話では、騒擾による負傷者で逓信省の近くの病院があふれていたという。


「逮捕者も多数出たようです。さらに増えるでしょうが」


夕食の折、父に促された兄が見聞きしたことを伝えてくれる。

食事の際は所作にもたおやかさを求められるため、いつもは無駄口を叩かず黙々と食べ終えるのだが、箸を一旦置いて質問を始めた。
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