明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「すみません。黒木信吾さんを捜しているのですが……」
「尋ね人ですか? それでしたら、右に行ったところで受け付けてもらえます」
「いえっ、こちらにお勤めの黒木信吾さんです」
そう伝えると、相手の表情が途端に引き締まった。
「失礼いたしました。黒木警部ですね。こちらへ」
よかった。亡くなってはいない。
最悪の事態を回避したことで気が抜ける。
警察の階級についてよくは知らないが、先導してくれるこの人の様子からして、黒木さんは上司にあたるのだろう。
私は彼のあとをついていった。
とある部屋の前で足を止めたその人は、私の名前を確認したあと「少々お待ちください」と入っていく。
「覚えていてくれるかしら……」
こうして押しかけてくるほど私は気になっているが、彼にしてみたら仕事で助けただけの一市民なのだ。
名前すら覚えていないかも。