明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

口の周りをべったり汚しながら夢中で食べ進む様子を、信吾さんとふたりで笑いながら眺めていた。


楽しい昼食後、買い物に行こうと店を出ると「泥棒!」という女性の大きな声が聞こえてきて、目の前を男が駆け抜けていく。

するととっさに信吾さんはその男を追いかけて、あっという間に地面にねじ伏せた。
見事のひと言だ。


「お母さま、お父さまどうしたの? 大丈夫?」
「大丈夫。お父さまは警察官なのよ。悪いことをした人を捕まえるのがお仕事なの」


私は、ここ銀座で信吾さんに出会った日のことを思い出していた。
あのときも、見事な手さばきで犯人を確保してくれた。


しばらくすると近くの警察署から警察官がやってきて犯人を引き渡し、信吾さんが戻ってきた。


「待たせてごめん」


バツの悪そうな顔をして謝罪する信吾さんに向かって、直正が両手を上げる。
抱っこをねだる仕草だ。


「お父さま、かっこいい」
「ありがとう、直正」
< 271 / 284 >

この作品をシェア

pagetop