明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「旦那さまからの伝言です」


章一さんは私をチラッと視界に入れたあと話し始める。


「信吾さんには爵位を継いでほしいと。奥さまの塞ぎっぷりがひどく……」


信吾さんが爵位を継がず家を出ると宣言したからだ。


「そうか」
「旦那さまは、とよさんの事件のことで怒りを持て余していらっしゃいました。それは奥さまも同じ。ですが、そのために今の生活まで滅茶苦茶にする必要があるのかと、先日おふたりとお会いになってから考えられたようです」


頑なに結婚を反対する意思を伝えられるのだと思っていたので、予想外の言葉だった。

それは信吾さんも同じようで、目を丸くしている。


「大歓迎というわけにはいかない。ただ、黙認するとおっしゃっています」

「それは、結婚を認めると?」

「旦那さまと奥さまのつらいお気持ちは、おそらく信吾さんが一番おわかりでしょう。それでも八重さんと生きていくという強いお気持ちを持たれている。それを覆すのは難しいのではないでしょうかと、僭越ながら進言させていただきました」
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