明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

「本当か……。章一になら、安心してとよを任せられる」


信吾さんは興奮気味に目を輝かせる。


「ですから、とよさんは信吾さんと八重さんにも幸せになってほしいと望まれています。もうあの事故のことは忘れて、これからを楽しく生きていきたいと」
「とよが……」


信吾さんは神妙な面持ちで、目を閉じた。
私も予想外の展開に感極まり、視界がにじんでくる。


「しかしながら、やはり爵位は信吾さんに継いでいただきたいとご両親はお望みです。どうか入婿の件はお考え直しいただけないでしょうか」
「承知した。八重を娶り黒木を名乗ろう」


信吾さんは心底ほっとしたという笑みを浮かべながら、返事をした。



とよさんと章一さんの結婚式は、その三カ月後の暑い最中に行われた。

大歓迎とはいかないと宣告されていた私だったが、ふたりの結婚式への参列を許され、真新しい着物でおめかしした直正を連れて黒木家へと向かった。
< 276 / 284 >

この作品をシェア

pagetop