明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

そんなふうに胸を痛めているとは思いもよらなかった。

でもそれは誤解なので解いておきたくて、私は話し始める。


「信吾さんは……警察官になったことを少しも後悔などされていません。どんな身分であっても幸せに暮らせる世を作りたいとおっしゃっていました」


警察官になる契機となったのは、とよさんの事故だったかもしれない。
けれども、今はその職に誇りを持っている。


「そう……。よかったわ。それだけが気になっていたの。兄にはもう肩の荷を下ろして自分のために生きてほしくて。八重さん、兄をよろしくお願いします」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」


とよさんの優しさに触れ、目頭が熱くなった。



挙式が滞りなく終わったあと、お母さまが私たちのところに来てくれた。


「母上、直正です」
「直正くん。初めまして」


うっすらと涙を浮かべるお母さまが、直正に視線を合わせるようにしゃがみ込んで抱きしめたとき、こらえきれず感動の涙が流れた。

受け入れてもらえたのだと。
< 278 / 284 >

この作品をシェア

pagetop