明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「私、お仕事の邪魔ばかりしていますね。申し訳ありません」
「市民の安全を守るのも私たちの仕事です」
少しも迷惑そうな顔をしないので、ホッとした。
「暴動でおけがは?」
「かすり傷程度ですよ」
「かすり傷? 大丈夫ですか?」
やはりけがをしたんだと声を張ると、彼は柔和な笑みを浮かべる。
「問題ありません。真田さんはお優しいのですね」
「い、いえっ」
隣に座る彼が至近距離でじっと見つめてくるので、恥ずかしくてたまらない。
「もちろん火を放つなど言語道断ですが……。日比谷の事件は、暴徒化した市民の気持ちがわからないではないんです」
「えっ……」
神妙な面持ちで話し始めた彼だが、その内容に驚く。
「この度の戦争で家族を亡くした者も多数います。働き手を失い、貧困にあえいでいる家庭も。それなのに賠償金もなく終結なのですから、憤りをぶつける場所がないのでしょう」