明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「とてもおいしい……」
思わず漏らすと、彼は頬を緩めている。
「お気に召してよかった。八重さん、やはり所作がおきれいだ。見惚れてしまいました」
「えっ……」
食べることに夢中で、見られているなんて気づかなかった。
ナイフやフォークの扱いも学んでいるが、間違ってはいなかっただろうか。
警察官とはいえ、彼も裕福な家庭で育っている。
こうした機会は何度もあったに違いない。
「すみません。緊張しないで食べてくださいね。ただ、八重さんと一緒にいると、行動をつい目で追ってしまうといいますか……」
彼は珍しく視線をキョロリとそらして話す。
少し耳が赤いのは気のせいかしら。
とはいえ、『目で追ってしまう』なんて言われて、照れくさいのは私のほうだ。
「使い方が誤っていたら教えていただけますか?」
「ひとつとして間違っていませんよ。音も立てず、本当にご立派だなと思う反面、子爵令嬢は大変だなと考えていました」