明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
母が助け船を出してくれたが、その発言の内容は私の心の中とはまったく異なるものだった。
気もそぞろに食事を終え自室に戻ると、てるが風呂の準備のためにやってきた。
「八重さま。元気がないようにお見受けしますが、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。ねえ、てる。てるは好きな人がいるの?」
最近、主に食事の支度を担当していた女中が嫁いだばかりで、恋愛の話で盛り上がっていたはずだ。
てるにも想い人がいるのだろうか。
「わ、私ですか? 気になる方がいるにはいるのですが……」
恥じらうような表情をして小声で告白する彼女は、いつものはつらつとした姿とは違う。恋する乙女そのものだった。
私も、黒木さんの前ではこんな顔をしているのかしら。
ふとそんなことを考え、即座に打ち消す。
彼のことを考えても、もうどうにもならない。