明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
「そう。頑張って」
「ありがとうございます。でも突然どうされたんですか?」
「私ね……。侯爵清水家に輿入れが決まったの」
給仕の担当ではない彼女はまだ知らなかったらしく、目を大きくしたあと、ぱあっと表情を明るくする。
「それは、おめでとうございます。八重さまはお美しいですもの。世の男性が放っておきませんよ。よかったですね」
一番近くで私の世話をしてくれている彼女は、うっすらと目に涙まで浮かべて喜んでいる。
私は家族や女中の祝福を裏切ることなんてできないのだろうなと、呆然と考えていた。
恒さんと顔を合わせたのは、その週の日曜日。
一刻も早いほうがいいと言う父が、私を伴い清水家に向かったのだ。
新宿の一等地にある清水家の敷地は驚くほど広く、庭は手入れが行き届いている。
立派な洋館には数えきれないほどの部屋があり、その隣には和風の住居まで整っていた。
格式と財力をいきなり見せつけられて、緊張のあまり顔が引きつる。