明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
囁かれた瞬間、我慢していた涙がほろりとこぼれて慌てて手で拭う。
「お恥ずかしい姿を……」
こんなみっともない姿を見せるなんて……。と思えば思うほど涙が止まらない。
「あなたが謝る必要はありません。私が触れても怖くはありませんか?」
「はい」
彼は震える私を慮ったのかそんな言葉をかけたあと、ハンカチーフを取り出して涙を拭ってくれた。
「なにか奪われたものは?」
「助けてくださったので、なにも」
「そうでしたか、よかった……」
そのまましばらく寄りそってくれた彼は、落ちていた大福とシャツ、そして信玄袋を拾いあげて埃をはたく。
「大福は残念ですが……」
「はい」
袋から転げ落ちた大福はもう食べられそうにない。
「まだお時間はありますか?」
「はい。大丈夫です」
事情を聞かれるとばかり思ったのに、彼は私を伴い千歳に足を向ける。
そして同じ大福を購入して私に差し出した。