明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
恒さんがそんな事件を?
まったく聞かされてはいない事実に驚愕した。
「彼には幼なじみがいて、彼女にも子を産ませると言われました」
「はっ? 会ったのは一度きりなんだろう? そのときに?」
うなずくと、黒木さんは天を仰いだ。
「そんな男のもとに嫁いでも、八重が幸せになれるわけがない」
そして苦虫を噛み潰したような顔でため息をつく。
「俺と、逃げようか」
「逃げる?」
「そう。悔しいが、黒木家は清水家には太刀打ちできない。元士族と元公家では雲泥の差だ。どれだけ頭を下げようと、ご両親に許されないだろう」
たしかに、身分にはかなりの開きがある。
閨閥(けいばつ)関係を重んじる華族の世界では清水家との縁談を選ぶのが普通だ。
けれど、身分なんてどうでもいい。
「でも、黒木さんのお仕事は?」
「俺は……とある目的のために警察官になった。しかし、警察官でなくてもその目的は果たせる。八重と生きていけるなら、別の道を模索する」