明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
父に平手でぶたれたことを思い出し、視線が泳ぐ。
すると彼は私の嘘に気づいて強く抱きしめた。
「すまない。もっと気を配るべきだった。今でも俺と逃げる気はある?」
「もちろんです。黒木さんと一緒に行きたい」
彼のシャツを握りしめ訴える。
このまま心を殺して生きていくのは耐えられない。
「わかった。大切なものだけ持って。闇に紛れて出よう。玄関の鈴は外から解いておいた」
それじゃあ、ここから逃げられるのね。
つい先ほどまで死んでしまいたいと思うほど沈んでいたのに、喜びが広がっていく。
「はい」
大切なものなんてほとんどない。
六年ほど前に亡くなった、私をかわいがってくれた祖母にもらったかんざしだけを持ち、黒木さんの手を握った。
庭の木の陰を通り、なんとか誰にも見つからず玄関を抜け出したあと、私はこれまで育ててもらった真田家に深く一礼する。
「八重、本当にいいのか?」
「はい。私は黒木さんと生きていくと決めたのです」