明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
女将が用意してくれた着物は、普段てるたち女中が身に纏っているような柄のない媚茶色の一品。
地味なほうが目立たずに動けるという配慮だった。
「お世話になりました」
「なにもお構いできませんで。私にできることがあれば、いつでもお待ちしております。黒木さん、奥さまを大切に」
お礼を言うと女将に『奥さま』と言われて、頬が赤らむ。
「ありがとう。女将も元気で」
信吾さんは簡単に挨拶を済ませ、私の手を引いた。
「電車に乗って西を目指そう。途中で気に入った場所があれば、そこに住むのもいい」
まさにいちから始める生活だが、不安などない。
信吾さんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる。
電車に乗るために東京駅を目指したが、緊張で手に汗握る。
私がいないことは確実に気づかれている。
清水家にどうしても嫁がせたい父が、使用人を使って捜していることは明白だった。
「八重、こっち」
そのため彼も目立たないように私を連れて進む。