明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
その日の晩。
食欲はなかったが、父の機嫌をこれ以上損ねてはいけないと大広間に食事に向かった。
立派な膳は、華族ゆえ口にできる物かもしれない。
でも、私が一番求めているのは……。
姿勢を正して箸を持つ。
幼き頃からしつけられた振る舞いは、父にとっては清水家との縁を取り持つひとつの要素となった。
「お帰りください。旦那さまはお許しになりません」
「お願いです」
玄関のほうからなにやらもめている声が聞こえてくる。
「八重さんに会わせてください」
はっきりとその声が聞こえた瞬間、箸を落としてしまった。
「信吾さん……」
立ち上がり部屋を出ていこうとすると、父に羽交い絞めにされる。
「無礼者が。助けてやったのに恥を知れ。横山(よこやま)、追い返せ」
父が使用人で秘書のような役割をしている男性の横山さんに指示を出す。
「嫌。信吾さん!」
「八重、八重!」
私の声が届いたらしく、信吾さんの悲痛な叫びが聞こえてくる。