明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~
その言葉がありがたかった私はうなずき、従った。
人力車を止めた黒木さんは、さっと手を出して私が乗車するのを手伝ってくれる。
「ありがとうございます」
「いえ。ご自宅はどちらで?」
「麻布です」
彼は私に住所を聞き出したあと、すぐさま車夫に行先を指示して発車させた。
「お仕事中でしたよね。大丈夫ですか?」
「はい。市民の安全を守るのも仕事です。ご心配なく」
私を安心させるためか、黒木さんは優しい笑みを浮かべる。
「それより、私のようなものが隣に座らせていただいて、旦那さま候補の方がお怒りになられないでしょうか」
そう問われ、肩と肩が触れる距離に男性がいるのだということを強く意識してしまい、頬が赤らむ。
「そんな人はおりません」
「そうでしたか。お美しい方なのでてっきり……」
黒木さんの発言がくすぐったくて目を伏せた。