My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3

「歌なら覚えてるぞ! 銀のセイレーンに教えてもらったって歌! ばあちゃんよく歌ってくれたから」
「本当に!?」

 そしてドナは歌い出す。記憶の中に残っているそのメロディーを思い出すように、目を閉じてゆっくりと。

 私は大きく目を見開く。
 たどたどしくはあったけれど、それはよく知っている歌だったから。

「カノン?」

 セリーンの心配そうな声。
 いつの間にか、涙がこぼれていた。

 “埴生の宿”

 ドナが歌うその歌は、私のおばあちゃんが大好きだった「埴生の宿」に間違いなかった。

 しかも片言の、でも確かに日本語の詞で紡がれるその歌声を聴いて、胸がいっぱいで何も言えなかった。

「!? カノン、どうしたんだ?」

 歌い終わったドナがびっくりした顔で私を見る。

「――知ってるの」
「え?」
「その歌。私のおばあちゃんが、大好きだった歌なの」
「カノンの、ばあちゃんが?」

 両手で顔を覆い頷く。涙が止まらない。

 ――なんて奇跡だろう。

 ここで、歌が不吉とされたこの異世界でこの歌が聴けるなんて。
 私よりも先にこの世界に居たという銀のセイレーンも、おそらくは私と同じ日本人だったのだ。

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