My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
「あぁ~。ま、それはあの姉ちゃんに会えたらまた考えようぜ!」
「はぁ」
その場しのぎの言葉だったのだろうか。
少し拍子抜けした気分でアルさんの横顔を見上げていると。
「――!」
どんっと道行く人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
慌てて振り返りざま謝罪する。
相手は小柄で、子供のように思えた。でもフードを目深に被り口元も布で覆っていて年齢も性別もはっきりとはわからない。
どちらにしても悪いのは周りを良く見ずに走っていた私だ。危うくこの人を転ばせてしまうところだったと私はもう一度頭を下げる。
「すみません、急いでて。大丈夫でしたか?」
するとその人の口元がふっと笑った気がした。
「大丈夫だよ、おねえさん。でもこれからは気をつけてね」
それはやっぱり少年の声。でも妙に口調が大人びていて。
「は、はい、気をつけます」
私がそう答えると彼はすぐにこちらに背を向け、詰所の方へと歩いて行ってしまった。
(あんな格好で暑くないのかな)
そう思いながら私は額の汗を拭う。
「カノンちゃん早くー!」
アルさんの呼び声に私は再び駆け出した。今度は人とぶつからないよう十分に気を付けて。