My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 3
そして私たちは今一度山に足を踏み入れた。
荒い息を整えながら向かう先にある暗闇を見つめる。下りてくるときは街の灯りが目印になったけれど。
(何も見えない……)
こんな中もう一度あの場所に辿り着くことは可能なのだろうかと不安に駆られたときだった。
「カノンちゃん、ちょっとごめんね」
「はい?」
目の前で身を屈めたアルさんに疑問を抱く間も無くいきなり抱き上げられ、私は小さく悲鳴を上げた。
「あ、アルさん?」
「上の方からのが探しやすいからさ。――悪ぃ、少し力借りるぜ」
声色が変わりすぐに理解した私は慌ててアルさんの服を掴み目を瞑った。
「風を此処に……!」
周りで強い風が巻き起こり、次の瞬間その風に攫われるようにして私たちは空へと舞い上がった。
「――あ、カノンちゃんこうやって飛ぶの初めて?」
「い、いえ、前にラグに」
薄眼を開けどうにか答えるとアルさんがふっと笑った気がした。
「そっか、なら平気だな。よっし、一気にトムん家まで行くぜ!」
「はい、お願いします!」
風音が一層強まって、私は再びギュッと目を瞑り服を掴んでいる手に力を入れた。
「あれだな。――ん?」
数分後、その声に私は再び薄目を開けた。
「ど、どうしたんですか?」
「ん~? あれって……クラヴィスか?」
「え!?」
精一杯に目を開いて眼下に広がる真っ黒な樹海を見つめる。
闇の中ぽつんと仄かな光が浮いて見えた。それがツリーハウスから漏れる灯りとわかって、その更に下。確かに人影があった。
下降していくにつれその姿が明らかになる。
さっぱりとした短髪。見覚えのある服装。そして腰に携えた細身の剣。
それは間違いなくクラヴィスさんだった。