拝啓ヒトラーさん



ぐだぐだと下らないことを話していたら、さらに私たちに近づいてくる足音がした。
広だ、と思うと同時に「春さん」と声をかけられる。

「先生たちの歌、聞きに行くの?俺も行く」

「広。あんた体拭くか着替えるかしなよ。ビショビショじゃん」

「夏だしすぐ乾くって」

ぼたぼたと水滴をこぼしながら私の隣にきた広。
もう優勝チームの騒ぎは終わったのかと思ったが、後ろからは相変わらず騒ぐ声が聞こえてくる。
水風船に飽きたのだろうか。

水浸しの広に嫌がる私とは違い、楓ちゃんは気にしない様子で広に話しかける。

「今年も大須賀先生が歌うみたいでさ、超楽しみなんだよね」

「大須賀先生?」

「あ、1年は教わってないのか。英語の先生でね、すごくかっこいいんだよ」

ふぅん、と弟は特に興味もなさそうな顔をする。
集会や行事で一度くらいは見たことあるだろうに。
それに、大須賀先生は1年の英語もちゃんと教えているのに、と思った。

「1年7組の火曜5限のコミュニケーション英語担当の先生だよ。美術部と男子バスケ部の副顧問で、今日はラルフローレンのポロシャツ着て救護テントでずっと保健の先生と話してた人」

誰だか分かった?と弟に聞けば「あぁ、あの人ね」と繋がった様子。
「松坂桃李に似てる人でしょ?」と笑う広に「そうそう」と楓ちゃんも笑う。
なるほど、似ている芸能人で例えればわかりやすいのか。
私が一人納得している間にも、広と楓ちゃんは楽しそうに大須賀先生の趣味の話をしている。

明るい楓ちゃんと、模範的優等生の広。
この2人が付き合っても、文句を言う人は少ないだろう。
楓ちゃんには女の子の陰口さえも簡単に受け流せそうなパワーがある。
広と楓ちゃん、付き合ってくれないかな。そうすれば私の心労も減るのに。




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