拝啓ヒトラーさん



「広くんは知らないだろうけど、春って大須賀先生のお気に入りなんだよ」

「へ?」

「大須賀先生、大学はアメリカだったからさ、春にもアメリカの大学に進学してほしいみたい」

きっと留学仲間がほしいんだよ、と笑う楓ちゃん。
広は目を丸くして私を見る。
見つめられただけで責められている気になる、広の目は不思議だ。

「春さん、進学、アメリカにしたの?」

「まだ決めてないよ。今のところ、日本の学校で考えてるけど」

そもそも大学進学さえも気が乗らないのだ、と正直に話してしまいたい。
言ったところで「なんで!?なんで大学行きたくないの!?」と質問ぜめにされるだけだから言わないが。

「そっかぁ」と広はどこか安心したように呟く。

「別にアメリカでもイギリスでも行きたいところに行けばいいと思うけどさ。うん。でも、どこに行ったとしても月1くらいは連絡してよ。春さんすぐ消えそうだし」

「どういう意味だそれは」

心配してるのかしてないのか分かりづらい広。
これを本心で言っているのだから天然は扱いづらい。
私と広の会話を聞きながら楓ちゃんがしみじみと「前から思ってたんだけど、」と話しかけてきた。

「広くんってけっこうシスコンだよね」

「よく言われる」

「どこが」

何故か嬉しそうに答える広と、げんなりした調子の私。
おまけに言っていることも正反対。

「あんた、シスコンって言われて嫌じゃないの?」

「別に。姉と弟の仲が良いってだけじゃん」

「シスコンの意味わかってないでしょ」

シスター・コンプレックス。
女姉妹に対して強い愛着、執着を持つ状態。
広のそれはただの姉離れできない甘えた気質だ。



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