拝啓ヒトラーさん
「また先程、春さんは『計算した』とおっしゃいました。サヴァン症候群の人には春さんのように一瞬で計算できる方も確かにいます」
けれど彼らの返答は春さんとは違う。
「どうやって答えを出したの?」と聞けば「見える」と返ってくるそうです。
「人間の脳というのは複雑です。未だに分からない部分の方が多い。春さんのように超人的な速さで計算ができる人もいれば、サヴァン症候群の方のように計算するとかいう次元ではない人もいます。彼らには計算ではなく、本当に見えているのです」
「そうなんですか。あの、すみません。話は変わりますが、春の学校について相談があるのですが」
先生の語りを遮るように前川夫婦は割り込んだ。
「先生の診断書と面談のおかげで、春は一学期は教室で個別課題をできるようになりました。ありがとうございます」
「そうでしたね。春さん、学校は楽しい?」
先生の問いに私はコクリと頷く。
口の中の飴が喉の方に転がる。
「体育や道徳や学校行事などは参加できているんですよね?」
「えぇ、しています。けれど、その、春のような子には普通の公立学校じゃなくて。あの、特別な措置をしてくれる学校の方が適切なのではないかと思ってまして、」
「ギフテッド教育ということですか?しかし、日本では飛び級制度もない現状ですし、海外でないと難しいとは思いますが」
先生はそう言いながら私を見た。
「春さんはどうしたい?今までの学校も楽しかっただろうけど、もっとたくさんのことを学べる学校もあるんだよ」
私は残りちょっとになった飴をカリッと噛んだ。
どうしたいもなにも、今いる場所以外の情報が少なすぎて想像もつかなかった。
「担任の先生の話を聞いても、今日は『十訓抄』と『源氏物語』の現代語訳を読んでました、くらいの話しかしてくれなくて。一応、友達とも話してるみたいですけど」
「弟さんとはどうですか?」
「広とは仲良くやっています。春は面倒見がよくて」
普段の様子は別段問題なさそうですけどねぇ、と先生は呟く。