拝啓ヒトラーさん
「春がすべての音を拾っているからといって、何か困ることはありますか?」
カクテルパーティー効果。
聴覚情報処理障害。
私は「また何か私の特徴が見つかったみたいだ」と他人事のように考えていた。
「“普通”であれば大いに困ります。カクテルパーティー効果がない子は集団生活での膨大な情報に多大なストレスがかかるので、耳栓をして生活をする場合もあります。しかし、春さんの場合となるとその心配も必要なさそうですが」
「はぁ」
「ラジオの内容もパソコンの内容もしっかり分かっている様子でした。多くの情報に混乱している様子もない。類稀なる計算能力をさきほど見せてもらいましたが、それと同じように、超人的な処理速度で聞こえてくる全ての音情報を処理しているのでしょう」
驚異ですよ、と先生は言う。
人間の脳は本当に未知ですね、と。
前川夫婦は私の肩に手を置いた。
母さんの手が暖かい。
里親として引き取った子がこんなに特異で手がかかるとは思っていなかったのだろう。
嫌われたかな。
めんどくさいって思われてるかも。
肩を撫でる手の暖かさを感じながら、私はそんなことを考えていた。