トルコキキョウ 〜奈月と流奈を繋ぐ花〜
周りから反対されるのは、百も承知だろう。
いくら流奈だって不安も少なからずありながらも、産むと決心した彼女は、私の言葉に少し安心しているようだった。
「あのさ、女の子か男の子分かったら一番に教えてよー!」
精一の笑顔を流奈に向けそう伝えた。
一瞬でパァっと表情が明るくなったのを見て、私はどんなことがおころうとも流奈の決めた答えが間違っていなかったと信じようと一瞬で思った。
「え?どーしよっかなーー生まれるまで秘密にしよっかなー」
「うわっっ!意地悪〜」
私の顔を見てクスっと笑う流奈。
その顔はもう間違いなくママの笑顔。
もう彼女は独りではない。
さっきまで怖いくらい真剣な顔をして向き合っていた私たちはまた、いつものようにオチャラケた。
「ところで、雄也くんにこれから話すんでしょ?」
「うん」
「じゃあ、遅くなる前に帰ろっか」
「そうだね……」
流奈はよほどホットミルクが嫌いなのか……
それとも飲むことすら忘れて緊張していたのか、恐らく後者であろうとは思うが、それを飲み干さず残したまま「今日はありがとう」と照れくさそうに私に笑った。
本当は久々と会った流奈とまだ話していたいのが本心だった
それでも、16歳の少女にまだまだ形として見えない命だがお腹の中に宿っている赤ちゃんがどうしても過ってしまうのだから母親になるということは、こういうことなのだろうと実感してしまう。
そして、やはり遅い時間になる前に家路につけないと心配だったから自ら帰宅を促した。
「奈月は上手く行ってる?」
その一言には色んな意味が込められていたことはすぐに分かった。
それでも私は「私は大丈夫」と最高の笑顔を作って見せたが、一瞬不服そうな顔をして横目で私の顔を覗き込んだ流奈も「今度またゆっくり」と優しく微笑んだ。
流奈の後ろ姿を見送りながら私はすぐにメールを送った。
[私はいつも味方だからね!気をつけて帰るんだよ]
歩きながら携帯をいじってる彼女がこちらへと振り向いた。
手を振って、暗闇で表情は分からないが流奈はきっと笑っているだろうと思い、私も笑顔で再び大きく手を振った。