青の秘密を忘れない
不安だった。
悟ったような態度をとったけど、不安で仕方なかった。

実際に連絡頻度も下がったが、自分の話をする代わりに友達の話をたくさんするようになった。
それを彼がどういう気持ちで送っているかは分からないけど、友達の話は新たに私と青井君を繋いでくれる。
毎朝晩連絡をくれる。大事な友達の話をしてくれる。
そんなことに愛情を感じているのは、強がりではなく本心からだった。

でも、ゆりえに報告したら絶対別れろと言われる。
私が逆の立場でもそう言うはずだと思ったら相談する気になれなかった。

誰か話を聞いてほしくて、ずっと覗いているだけだった不倫専用の掲示板に書きこんでみた。

そんな自分に驚いたが、もういろんなことがあり過ぎて、これくらいのことはもう驚くには値しないかも知れないなと思った。
私はその掲示板に、付き合う前から今までのことを書き連ねた。
個人情報は伏せたものの、できる限り詳しく書いた。
誰かに大丈夫だと言ってほしかった。

そして、割りとすぐにレスポンスが飛んできた。

『もっと楽しく不倫しようよ。そんな彼は捨てて新しい恋した方がいい!』

その文字の羅列を見て、私の心は一気に氷点下になる。

そして、私は日本のどこかにいるこの人を深く軽蔑した。

不倫を楽しんでいるなんて不道徳だと心の中で罵っていた。
私は不倫をしている人を軽蔑しても、自分を軽蔑してはいないのだなと気付く。

不倫をしない人たちにとって私は軽蔑に値する人間なのだということは分かっている。

私は陸地の間に流れている川で溺れかけている。
どちらの岸にたどり着くことも出来ずに足掻いているだけ。
冷静になれば立ち上がれるくらいに浅い川で滑稽に溺れている。

私は真実の愛に生きているだけだと心のどこかで信じているのではないか。
でも、それを信じて何が悪いのか。
彼とも共感できないであろう孤独を感じながら、どこか優越感にも似た興奮を覚えていた。

「私は不倫をしたいのではなくて……」
と書きかけて陳腐な反論しかできないのかと苦笑して、結局投稿せずにその文字列を削除した。


早く青井君に会いたい。

不安を解消するために書き込んだのに、余計に青井君が恋しくなる。
ブルーサファイアを見つめて、指でそっとなぞる。目を閉じて良いことだけを思い出す。

「篠宮さんといることを、僕も選んだのは間違いないので」という青井君の言葉を何度も繰り返して。
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