青の秘密を忘れない
第14章 王子様でもヒーローでもない彼
今まで、青井君のことばかり考え過ぎていたのかも知れない。
もっと自分の時間を大事にしなくてはいけない。
だから、ゆりえと旅行に行くことになったことも青井君に伝えないままだった。

「やっぱり女子旅っていいよね!」
実家に近い温泉街で街を散歩して美味しいものを食べ、温泉に浸かった。
久しぶりに呼吸が出来ている、そんな気分になる。

「最近は、どうなの?」と、ゆりえに問いかけられる。
「今日、青井君との話全くしないし、携帯も見ないけど……別れた?」

「別れては、ない」

自分に言い聞かせるように呟いた。
私はゆりえに青井君とのことを詳細に話した。
きっと「そんな男でいいの?やめときなよ」と言うだろうと思った。

「そうなんだ。それで、青子はいいの?」
予想に反してゆりえの声は優しかった。

「でも、青井君が言うことももっともなの。だって、まだ二十四歳だもの。
それでも好きじゃないって言葉は出なかったから、それを信じたい。
今まで見てきた青井君が全部違ったとは思えないの」

「ううん、そこもそうなんだけど、青子の気持ちは伝えたの?」

私の気持ち……。

「青井君の気持ちは分かったけど、青子は全然気持ち伝えてないじゃん。
自分が今感じてることは我慢してるままでいいの?」

「でも、私が年上なのにわがまま言えないよ……」

ゆりえは私の顔に軽くばしゃっとお湯をかけた。

「気持ち伝えるのに年上もわがままも関係ないでしょ。
青井君が何て言うのかは分からないけど、伝えなきゃ何も分からないし変わらないじゃない」

私は顔を拭いながら、頷いた。

そして、温泉から上がってベランダに出て青井君に電話をする。

「もしもし?」
出なかったらどうしようと思う間もなく、青井君の少し焦った声が聞こえた。
その声に思わず胸が締め付けられて泣きそうになる。

「篠宮さん?急に電話きたからびっくりした」

青井君の声が思ったよりずっと優しくて、前みたいに戻れた気がして一瞬安心してしまう。

「ごめん、びっくりさせて」
「……旦那さんは?」
彼のそう尋ねてくる声はぐっと沈む。

私は今、ゆりえと旅行に来ていることや旅行で見たものとかを一気に話した。

「結構こっち寄りに来てたんですね。……旅行してるの知らなかった」
「うん、なんか言うの怖くて」
「別にそういうのは言ってくれていいのに」

私の言葉に少しずつ青井君の気持ちが硬くなっていくのを感じて、
その前に言いたいと思った。

「近くまで行くって言ったら、青井君に会いたくなっちゃうから」

ああ……という返事が低く聞こえることは気にしないようにして言葉を続ける。

「明日の夕方会えないかな?そっち通るんだけど」
「明日ですか?特に予定もないのでいいですよ」

青井君は、少し何か考えているようにため息をついた。

「この前言ったことで悩ませてるんだと思うんですけど、会いたくないとかじゃないんです」

「いいの?」

私の声が明るくなると、青井君が暗くなりそうな気がして落ち着くよう努める。

「はい。あ、でもまあ……いや、これは明日話しますね。
今ベランダにいるんですよね?風邪引かないように戻りましょう」

私は「うん」と返事をして、ゆりえのいる部屋に戻った。
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