イケメン富豪と華麗なる恋人契約【番外編】
ちなみに、ふたりの新居は望月邸の敷地内に新築中だ。
かつての使用人棟を壊し、新婚夫婦にふさわしいサイズの家に建て替えようとしている。
もっと早く完成予定だったのだが、使用人棟の一角には高橋登、奈津江夫婦が細々と暮らしていた。
そんな彼らのために、新しい使用人棟を先に造ってもらったのだ。
新しい使用人棟は、高齢者でも住みやすい平屋建てのバリアフリー。渡り廊下で母屋と繋ぎ、行き来も楽にした。
万にひとつ、ふたりが働けなくなっても、ずっとそこで暮らしてほしいという日向子の希望だった。
『もったいないことです。わたくしどもはただの使用人ですのに……こんなに、大切にしていただいて』
外に家を探し、夫とともに通いで働くという奈津江を日向子は必死で説得した。
『奈津江さんがいてくれるから、弟たちのことを任せてお嫁にいけるんです。まあ、同じ敷地内ですけど。それに、行く場所のない明美さんと拓郎さんのこともお願いしたいし』
明美と拓郎親子だが……。
明美の夫は借金まみれで、離婚しても慰謝料はほとんど取れなかった。
彼女の世話をする義理はない、と追い出すこともできたが、日向子は別の提案をした。
現在、明美は奈津江から、掃除、洗濯、食事の用意など、家事全般の手ほどきを受けている。
ブツブツ言いながらも出て行かないのは、それなりに居心地がいいからだろう。
拓郎は大学四年になり、髪を黒く戻したものの、就活は絶望的だった。
ところが、急転直下で望月グループに入社が決まった。しかも千尋の口添えだというから、日向子もびっくりだ。
そんなこともあり、今では拓郎も千尋を兄のように慕い始めている。
だが、千尋には別の思惑があったらしい。
『彼のようなタイプは自由を与えたら失敗します。ほどほどの余裕を持たせた鎖で、繋いでおくほうが無難なんですよ』
『……』
千尋らしいと言うべきだろうか?
だが、卒業できなければ採用は見送ると言われ、拓郎も必死で大学の授業に出るようになったのだから……その点はよかったと思う。
晴斗と大介も、一年かけてやっと今の生活に慣れてきた。
拓郎たちとも上手く距離を取り、それなりに仲よくやっているようだ。
今、この望月邸に住む人々は……ひと言で表現できない、かなりややこしい関係だった。
それでも、三人で暮らしていたときより、弟たちの笑顔が増えた。
晴斗は来年中学生に、大介は高校二年になる。
きっと思春期の男の子の行動は、日向子には理解できないときもあるだろう。
それでも、日向子には愛する千尋がいて、ひとつ屋根の下に暮らす家族たちもいて――。
それは、とても幸せな未来図だった。
かつての使用人棟を壊し、新婚夫婦にふさわしいサイズの家に建て替えようとしている。
もっと早く完成予定だったのだが、使用人棟の一角には高橋登、奈津江夫婦が細々と暮らしていた。
そんな彼らのために、新しい使用人棟を先に造ってもらったのだ。
新しい使用人棟は、高齢者でも住みやすい平屋建てのバリアフリー。渡り廊下で母屋と繋ぎ、行き来も楽にした。
万にひとつ、ふたりが働けなくなっても、ずっとそこで暮らしてほしいという日向子の希望だった。
『もったいないことです。わたくしどもはただの使用人ですのに……こんなに、大切にしていただいて』
外に家を探し、夫とともに通いで働くという奈津江を日向子は必死で説得した。
『奈津江さんがいてくれるから、弟たちのことを任せてお嫁にいけるんです。まあ、同じ敷地内ですけど。それに、行く場所のない明美さんと拓郎さんのこともお願いしたいし』
明美と拓郎親子だが……。
明美の夫は借金まみれで、離婚しても慰謝料はほとんど取れなかった。
彼女の世話をする義理はない、と追い出すこともできたが、日向子は別の提案をした。
現在、明美は奈津江から、掃除、洗濯、食事の用意など、家事全般の手ほどきを受けている。
ブツブツ言いながらも出て行かないのは、それなりに居心地がいいからだろう。
拓郎は大学四年になり、髪を黒く戻したものの、就活は絶望的だった。
ところが、急転直下で望月グループに入社が決まった。しかも千尋の口添えだというから、日向子もびっくりだ。
そんなこともあり、今では拓郎も千尋を兄のように慕い始めている。
だが、千尋には別の思惑があったらしい。
『彼のようなタイプは自由を与えたら失敗します。ほどほどの余裕を持たせた鎖で、繋いでおくほうが無難なんですよ』
『……』
千尋らしいと言うべきだろうか?
だが、卒業できなければ採用は見送ると言われ、拓郎も必死で大学の授業に出るようになったのだから……その点はよかったと思う。
晴斗と大介も、一年かけてやっと今の生活に慣れてきた。
拓郎たちとも上手く距離を取り、それなりに仲よくやっているようだ。
今、この望月邸に住む人々は……ひと言で表現できない、かなりややこしい関係だった。
それでも、三人で暮らしていたときより、弟たちの笑顔が増えた。
晴斗は来年中学生に、大介は高校二年になる。
きっと思春期の男の子の行動は、日向子には理解できないときもあるだろう。
それでも、日向子には愛する千尋がいて、ひとつ屋根の下に暮らす家族たちもいて――。
それは、とても幸せな未来図だった。