イケメン富豪と華麗なる恋人契約【番外編】
千尋の実父は亡くなったと聞いたが、実母は生きているはずだ。
「本当のお母様とか、お元気なんでしょうか? もし、今だったら……後悔してたりするかも」
「ああ、母なら――」
千尋が実父と会った二十歳のとき、実母の所在も聞いて会いに行ったのだという。
彼女は息子を手放した金で借金を清算し、水商売から足を洗っていた。そして過去を消し去り、大病院の後継者である若手医師と結婚。ふたりの息子にも恵まれ、次期院長夫人として暮らしていて……。
そこに現れた千尋は、彼女にとって過去の亡霊――それも悪霊にすぎなかったらしい。
「金を強請りにきたのか、と。そのあと、弁護士から連絡がありました。特別養子縁組で実母との縁は完全に切れている。連絡を取ろうとは思わないように、だそうです」
「ご、ごめんなさい、わたしったら」
「あなたが謝る必要はありません。私の縁者の中に、ひとりでも結婚を祝ってくれる人間がいたら、と思ってくれたのでしょう?」
千尋の言葉どおりだが、それで彼を傷つけてしまったら、本末転倒だろう。
黙り込んだ日向子の顔を覗き込むように、千尋が口を開いた。
「沖の父なら、きっと喜んでくれるでしょう。それも、尊敬していた社長の孫娘との結婚ですからね。畏れ多いと言いながら、社長と祝い酒でも酌み交わしていると思います」
「じゃあ、うちのお父さんたちとも仲よくしてますよね?」
日向子は繋いだ手に力を籠めつつ、ほんの少し、彼に身体を寄せた。
「あの……千尋さんはもう、ひとりじゃありませんからね。わたしが……わたしたち、みんなが家族です。大介や晴斗もそうだし、拓郎さんも懐いちゃってるし」
孤独に生きてきた千尋に、二度とそんな寂しい思いはさせたくない。
日向子はその一心で彼を見上げる。
すると、千尋は彼女をみつめ、思わせぶりに微笑んだ。
「彼にはあまり懐かれても困るんですが……でも、招待客なんてどっちでもいいんです。結婚式を挙げたい理由の大部分が、あなたにドレスを着せたいだけですから」
「本当のお母様とか、お元気なんでしょうか? もし、今だったら……後悔してたりするかも」
「ああ、母なら――」
千尋が実父と会った二十歳のとき、実母の所在も聞いて会いに行ったのだという。
彼女は息子を手放した金で借金を清算し、水商売から足を洗っていた。そして過去を消し去り、大病院の後継者である若手医師と結婚。ふたりの息子にも恵まれ、次期院長夫人として暮らしていて……。
そこに現れた千尋は、彼女にとって過去の亡霊――それも悪霊にすぎなかったらしい。
「金を強請りにきたのか、と。そのあと、弁護士から連絡がありました。特別養子縁組で実母との縁は完全に切れている。連絡を取ろうとは思わないように、だそうです」
「ご、ごめんなさい、わたしったら」
「あなたが謝る必要はありません。私の縁者の中に、ひとりでも結婚を祝ってくれる人間がいたら、と思ってくれたのでしょう?」
千尋の言葉どおりだが、それで彼を傷つけてしまったら、本末転倒だろう。
黙り込んだ日向子の顔を覗き込むように、千尋が口を開いた。
「沖の父なら、きっと喜んでくれるでしょう。それも、尊敬していた社長の孫娘との結婚ですからね。畏れ多いと言いながら、社長と祝い酒でも酌み交わしていると思います」
「じゃあ、うちのお父さんたちとも仲よくしてますよね?」
日向子は繋いだ手に力を籠めつつ、ほんの少し、彼に身体を寄せた。
「あの……千尋さんはもう、ひとりじゃありませんからね。わたしが……わたしたち、みんなが家族です。大介や晴斗もそうだし、拓郎さんも懐いちゃってるし」
孤独に生きてきた千尋に、二度とそんな寂しい思いはさせたくない。
日向子はその一心で彼を見上げる。
すると、千尋は彼女をみつめ、思わせぶりに微笑んだ。
「彼にはあまり懐かれても困るんですが……でも、招待客なんてどっちでもいいんです。結婚式を挙げたい理由の大部分が、あなたにドレスを着せたいだけですから」