エリート御曹司と愛され束縛同居
「そう、なのですか? そんな、でもつい三カ月前まではどなたにも心は奪われておられないって……」

青ざめた顔でうろたえた声を出す。

「ええ、気持ちを伝えたのはごく最近です」

その返答に大きな目を見開いて小刻みに身体を震わせる。

「そんな、そんなことって……」

「申し訳ございません。桃子さんでしたらきっと素晴らしい伴侶に巡り合われると思います」

はっきりした拒絶に彼女の目が潤みだす。

「桃子、九重副社長を困らせるな。仕方ないんだ」

「わかっています……でも、でも……!」

こらえかねたのか、目から涙が零れ落ちる。

「……すまんね。こちらから呼び出しておいて申し訳ないのだが今日のところは……」

苦渋の表情を浮かべる植戸様に副社長は無言で頷き、私も頭を下げて退出した。

部屋を出る際、悲嘆にくれた目を向けられたが、なにも言えなかった。

……気持ちはとてもよくわかる。

副社長の人となりをよく知っているだろうし、関わってきた時間も長いはずだ。

真っ直ぐな想いを一途に抱いてきたのではないだろうか。

そう思うと胸が痛むが、身を引く気持ちにはなれない。

もう引き返せないくらいにこの人を好きになりすぎてしまっているから。
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