エリート御曹司と愛され束縛同居
正論過ぎて返す言葉が見つからない。

兄の主張は悲しいくらいに正しい。

わざわざ指摘されなくとも、私が決断できずに逃げているだけだとわかっている。

それでもほかの女性とは婚約しないと信じたい。

「……しばらくはゆっくり話せないから少し時間をちょうだい」

これは事実だ。今は特に新ホテル事業の件で忙しい。

『一カ月だ。それ以上は待たない。それまでにきちんと話し合わないなら両親に話して強制的に実家に連れ戻す。もちろん交際も認めない』

「そんな、もう大人なのに誰と付き合おうと自由でしょ?」

『大事な妹がみすみす不幸になるとわかっているのに賛成する兄がどこにいるんだ?』

いいな、と念押しをされて通話が切られた。

口を閉じきれない状態でがっくりと肩を落とす。

兄はいつも自分の考えを貫いてくるが今回に限っては言い分が正しいのでどうにもできない。

のろのろと手にしていたスマートフォンを書き物机の上に置いた。胸の奥が鉛の塊を呑み込んでしまったように重くなった。


『この同居はどういうものなの?』

『いつまで続けるの?』


簡単に軽く尋ねればいいだけだとわかっている。

恋人になる前はもっとずけずけと意見を伝えていた。そもそも自ら無理やり同居までこぎつけたくらいだ。

なのにどうして恋をしたらこんなにも臆病になって言葉が出なくなるのだろう。

失う恐さに負けてしまうのだろう。

部屋の窓からは明るい月の光が差し込んでいるけれど、心の中は新月の夜のように真っ暗だった。


結局その日は兄の来訪を遥さんに告げられなかった。

普段よりも疲れた表情で帰宅した恋人の姿に言葉を呑み込んでしまった。
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