エリート御曹司と愛され束縛同居
翌日、副社長室で書類を受け取り、一礼して退室しようとすると呼び止められた。

「澪、なにかあったのか?」

「え……?」

その問いかけにギクリと身体が強張った。ゆっくりと立ち上がって扉近くまで歩いてくる。

「昨日、なにか思いつめた表情をしていたし今日もどこか上の空だろ? 誰かになにか言われたのか?」

「……なにかって?」

「俺たちの関係への嫌がらせ、とか」

ドクンと鼓動がひとつ大きな音を立て、冬も近いというのに嫌な汗が背中に滲む。

なにもかも見通すような目で見据えられ、そっと頬に長い指が触れた。

「……どうして……?」

「大事な恋人の様子に気づかないと思うか? どれだけ見ていると思う?」

言葉が胸の奥深くに真っ直ぐに刺さって、痛む。


どうしてわかるの? なんで気づくの? 


「なにか悩んでいるなら教えてほしい。ひとりで抱えずに頼ってほしい。誰かに後から聞かされるのは嫌だ」

温かすぎる願いに涙が滲みそうになる。コツンと彼が私の額に自身の額を合わせる。

伝わる体温が心を弱らせる。


「……お前以上に大切なものはないんだ」

切ない声が心に沁みこんでいく。


あなたは私との未来を考えてる? 家族に会ってくれる?


心を塞いでいる想いが口から零れそうになった時、コンコンと軽快なノックの音が響き、慌てて距離を取った。

仕事中になんて話をしようとしていたのだろう。

「澪、気にするな」

そう言って離れた距離を詰めようとする遥さんに小さく首を横に振り、無理やり口角を引き上げる。

「……大丈夫、昨日なかなか寝つけなかっただけなの」

「失礼します。急ぎの電話がありまして……」

ガチャリと扉が開く音がして姿を現したのは是川さんだった。

「あの、特に問題はありませんので、失礼します」

早口で退出の挨拶をするだけで精一杯だった。

逃げる必要はないのにどうしてこんなに後ろめたいのだろう。

答えの出ない迷路に迷い込んで出口を見つけられない自分が情けなくて嫌になる。
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