エリート御曹司と愛され束縛同居
察しもよく頭がキレる圭太は私の行方をあらゆる手を使って周囲に聞きこみ、捜してくれたそうだ。そして話の内容を聞いたという。

「澪をあの場から連れ出そうと思ってたし、盗み聞きするつもりはなかったんだけど」

ぎこちなく眉尻を下げて首を横に振る。

駆けつけてくれて本当に助かった。

もし来てくれなければ取り乱して、どうなっていたかわからない。

「……ありがとう」

「さっきも言ったけど気に病む必要はないよ。先輩が選んだのは澪なんだから堂々としていればいい」

「……無理だよ、だって私にはなんの力もない」

力なく声を発した途端にこらえていた涙が零れ落ちそうになる。

泣きたくなんてない、泣いたってなにも変わらない。

いくら気心の知れた幼馴染みの前とはいえ泣くわけにはいかない。

自分の無力さに泣くなんていい大人なのに情けなさすぎる。

わかっているのに心が痛くて苦しくてどうしようもない。


どうしてあんなとんでもなく完璧な人を好きになってしまったの。


その時、軽いノックの音が響き、ウェイターが温かいコーヒーをふたつ運んできた。

「先輩を諦めるのか? お前の気持ちはその程度なのか?」

ウェイターが退出した後、眉間に皺を寄せた幼馴染みが厳しい声で問いかける。

「諦めたくないよ……! でも仕方ないじゃない。遥さんや皆があんなに必死に取り組んできた新事業の邪魔はしたくないし、なにより作法ひとつ満足にできない私が相応しいわけない」

「相応しいかどうかを決めるのは澪じゃなくて先輩だろ? なんで仕方ないとか言うんだ」

珍しく幼馴染みが語調を強める。
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