エリート御曹司と愛され束縛同居
最寄り駅に到着して、改札を出ると星の見えない真っ暗な夜空が見えた。

いまだ雨は、やむ気配がない。傘をさし、水たまりを避けて自宅までの道をゆっくり歩く。

駅からは徒歩十分もかからない。駅前には幼い頃から通いなれた商店街があり、遅くまで営業している店舗の照明が夜道を仄かに明るく照らしてくれている。


「ただいま」

古くなり幾分重たくなった玄関の引き戸を開けると、少し軋んだ音がした。

「おかえりなさい。お父さんもさっき帰ってきたの。一緒に食事をしましょう。話したいことがあるのよ」

玄関で迎えてくれた母がおっとりと言う。父は大手菓子会社に勤務している会社員だ。

「そうなの? じゃあ急いで着替えてくる」

そう言って玄関から続く廊下を真っ直ぐに進み、突き当りにある階段を上がる。

私の部屋は二階の階段を上ってすぐ右にある。

自室に入り、バッグを書き物机に置き、部屋着のワンピースに素早く着替えてダイニングに向かうと、父は既に四人掛けの食卓についていた。

父の真向かいに座り、声をかける。

「ただいま」

「おかえり、澪。雨は大丈夫だったか?」

父が目を優しく細めて言う。

頷きながら母の支度を手伝い、夕食を食べ、ガラスコップに入った冷たい麦茶に手を伸ばす。
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