クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
「たとえば、この水槽に緑色の砂が敷き詰められているのは、ただ見た目の奇抜さを狙っただけではなくて、イエローコリスの砂に(もぐ)って休む性質に合わせているんだと思います。それに穏やかな緑は黄色と相性がいいですから、じっくりと眺めていられますし……」

 興奮して語ってしまいふと我に返る。初対面の、しかもなにげなく世間話程度に話しかけてくださった人になにを言っているのか。

 呆れられるか、引かれているか。相手を窺えば、男性はニコニコと穏やかな笑みを浮かべている。

「そこまで伝わっているなら製作者側は幸せだと思いますよ」

 そう告げて彼はその場を去っていった。もしかしてホテルかレストランの関係者だったのかもしれない。

 そこで司会者から声がかかる。ホテルのオーナーの挨拶で、場の注目は設置された壇上へと注がれた。

 乾杯の音頭と共に正式にパーティーは始まった。レストランのシェフ自慢の料理が並び、人々の流れは水槽からそちらへ移る。

 ホテルのキャンペーンで招待された人の中にはカップルや家族連れなど様々だ。美味しい料理に舌鼓を打ち、非日常の水中世界を楽しんでいる。

 会場に目を走らせていると、ある人物に目を引かれた。

 幾人もの年配者に囲まれて談笑しているのは桑名美加さんだった。クワナ工業株式会社の社長令嬢としてこの場に知り合いも多いのだろう。

 肩が大胆に開いたワンピースタイプの純白のドレスはレースがふんだんにあしらわれ、ひときわ目立つ。
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