クールな次期社長の溺愛は、新妻限定です
 受け身がちであまり自己主張をしないと思われた汐里をよくよく観察してみれば、すぐに自分の認識を改めざるをえなかった。

 彼女は必要以上に口を出さないだけで、他者の話をよく聞いている。ぶつかり合う意見を擦り合わせるのがうまく、自分の考えもそこにしっかりと組み込んでくる。

 仕切る人間や最終的にまとめる人間が目立ちがちだが、汐里のグループの課題に対する進捗(しんちょく)状況がいつも順調なのは彼女の存在も大きい。

 だから汐里と話すのは心地よかった。卒業論文のテーマを言い訳に、駅近くの水族館で彼女と何度か会って他愛ない会話を繰り返す。

 最初に変に取り繕わなかったおかげで、こちらも自然体でいられた。妙な遠慮も媚びたりもなく、汐里の態度も変わらない。

 一方、ゼミでは無駄に話しかけられもせず、こちらから声をかけたりもしなかった。それが有難くもあり、なぜかもどかしさを感じてもいた。俺は彼女とどういう関係を築きたいのか。

 はっきりさせないまま夏休み直前になり、汐里がゼミの同期と親しげに話しているのを目撃した。

 なんとなく彼は汐里に気がありそうだとは敏い勘で気づいていた。その証拠に彼女の行きたがっていた水族館の話題を持ち出し、誘いをかけている。

 汐里はすぐに顔を綻ばせて行く気になっていた。その反応に腹立たしさを覚える。しかしふたりで行くとはまったく思っていないのが彼女らしい。
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